教育現場におけるEQの活用 > SEQの活用事例
松山東雲女子大学 正課授業におけるスチューデントEQ & ポートフォリオ、
実践・体験型授業を通して進むEQ開発
大学生協 中四国事業連合 井長久美子
多くの会員生協の講座や研修でスチューデントEQ〔=SEQ〕の活用が広がる中で、小規模生協でも全学生や新入生への受診の提案も推進されている。小規模生協にとって大きなビジネスチャンスともなるSEQの導入は、事業的伸張と学び成長事業に取り組む機会にもなると考え、東雲大学生協職員と共に松山東雲大学のキャリア支援部長を訪問し、新入生を対象にSEQを提案したが、2014年度は既に別企業のツール導入が決定していた。しかし、この提案を聴いたキャリア支援部長である西村浩子先生が自らの授業で活用してみることとなった。 今回は、「東雲女子大学の正課授業でSEQを活用した授業」を模索しながら実施した、その内容と成果を報告する。
1.西村先生〔正課授業〕の悩み
「ビジネス能力養成プログラム」修了証明書取得のための授業科目「自己理解と表現研究」の講座は2012年度より実施されていた。しかし、西村先生は、この講座の内容やと取り組み方について、4つの悩みを抱えていた。①学生の自己分析の助けになる、客観的で可視化できるツールはないか ②学生のレベルにあったもので、経費的にも抑えられるものはないか。 ③「実体験」が授業の中で出来て、学生の目標設定とその継続に有効な方法は何か。 ④回生、専攻が違う学生たちが共に学び合える方法はないか、また、社会人と交流できないか。
こうした悩みや改善・改良したい問題があることは、後ほど知ることとなったが、まずは、西村先生とキャリア支援の玉成プログラム〔=GP〕職員〔2名〕、井長店長〔東雲大学生協職員〕の4名で、まずはSEQを受診し、解説会で、このツールの活用と有効性の理解を深めた。
次に、具体的な15コマのカリキュラムについて、意見を出し合い前期授業の具体化をしていった。そして、SEQに関わる授業として7コマを当ててもらって授業を進めていくことになった。
2.新「自己理解と表現研究」講座のチャレンジ
大学4年間で何を学び、どんな社会人、どんな仕事につきたいかなど自らの夢や目標を明確化せずに自己理解も成長は悩ましい。そこで ①「講座版オリジナルポートフォリオ」〔連合提案〕を導入し、学生一人ひとりの将来の夢や目標をイメージし記録を残した。 また、授業の終了前に、必ず「気づきシート」を記入し、授業での気づきや発見を記録し、ファイリングしていった。後半の授業では、「気づきシートを書く時間をきちんと持ってほしい」という意見が出るほど、記入が定着した。7月末最後の授業では、「私の学びと成長振り返りシート」の発表会を行なった。なお、先輩やサポーターもいない状況の中で、学生一人ひとりの気づきシートにコメントを書き込む作業をGP職員の方が、こだわり、積極的に携わって頂いたことを心から感謝している。
②「SEQの活用〔2回受診+解説会+自己分析と理解+成長〔開発〕目標設定+成長目標の進捗管理と啓発+個別フィードバック〕」で学生一人ひとりの意識と行動を変えていくことをサポートしていった。なお、SEQの活用については、次の項で詳細を説明する。
③「東雲大学生協の協力で、学生たちが実体験できる場の提供〔=PBL授業をサポート〕」は、「学内で近く、目が届く」「安心してチャレンジできる場の提供」という大学と大学生協の信用信頼のもと、生協の店舗や食堂ホールなども活用して、グループの仲間と協力し、いろいろな実践・体験できる場として提供することとなった。今回は、「お菓子王決定戦」をテーマに、学内の学生さんや教職員にお菓子アンケート調査を実施し、集めた意見を分析、約500種類の中から商品選定、1グループ1万円までの予算で発注、生協店内にお菓子の棚づくり、手作りのPOP掲示、グループ対抗で販売促進・宣伝、授業の合間の補充作業など、学生たちは主体的に取り組んで行った。出来上がったお菓子の棚について、生協利用者からシール
による評価投票もしてもらった。
大学の学生も教職員も巻き込んで1週間の販売を行なった。大学ホームページにも、この取り組みが報じられ、大学全体がこの授業や取り組みを好意的に受け容れ、応援してくれた。利用金額や投票結果について表彰式を行った日の気づきシートには「達成感、充実感があった」「積極性や自己主張性が高まった」「お店の販売の苦労と同時に、やりがいを感じた」などの気づきを沢山残していた。
3.SEQで夢や目標に向かって、継続的に意識と行動を変え、自らを成長させていく
今年は「SEQの活用〔2回受診+解説会+自己分析と理解+成長〔開発〕目標設定+成長目標の進捗管理と啓発+個別フィードバック〕」を教材代として、学生たちが自己負担して受講した。
やはり、ただSEQを受診すれば、誰もが成長できるというものではない。まずは、「成長したい!」と思える夢や目標〔ありたい姿など〕を持つことで、その目標に近づくために意識をして、行動を変えていこうという動機が生まれる。だからこそ、「講座版ポートフォリオ」を導入し、「自分の夢・目標を考える」時間をもった後、1回目の受診を実施した。そして、解説会と自己分析を行ない、強みと弱み〔=成長課題〕を探る。自分の夢や目標に近づくために、どの素養開発が必要かを決め「自己成長〔開発〕目標」を設定し、具体的な行動計画を立てた。23名全員の行動計画を確認するには時間が足りなかったため、毎回の授業の中で、点検し、アドバイスをして目標や行動計画の軌道修正を行っていった。
「自己成長〔開発〕目標行動計画進捗管理シート」を活用して、日々振り返り記録を付け、毎回の授業に持参し、グループ毎に進捗状況を共有する時間〔約10分程度〕を持った。だが、進捗シートへの記入や協力者を募ることまできちんと出来ている学生は、23名中3分の1くらいだった。できていないことを攻めるよりも、グループ共有の場で、一週間の行動を振り返ること、一行でも記録し、再度トライするように促し、15コマの授業の内、10コマ〔=10週間〕活用して、講座生全員が意識と行動の実践、振り返り、記録し、共有することを継続させた。2回目のSEQ受診をした日の気づきシートでは「遷移の変化を見ることが楽しみ」「どんなに成長できたがワクワクしている」「自分の行動の変化と周りの反応の変化を実感しているので変化していると思う」という感想が多かったことが印象的である。 2回目の自己分析では、1回目の数値との変化や素養の掛け合わせ〔座標〕によるスタイルの変化などの分析を行った。同時に、個別フィードバックも行って、学生一人ひとりの意識と行動の変化の要因や理由を確認する時間を持った。一人5分程度の予定だったが時間が足りなくて、休憩時間や翌日の昼休みにも実施したところ、複数の学生たちがフィードバックを望んで来てくれた。自己分析だけでは、気づけない自分の行動と感情の変化について、客観的に見つめ直すことができるフィードバックは、貴重な時間となった。
4.「私の学びと成長振り返りシート」発表の場学生たちの成長を実感
「7/29は授業最終日、前期授業での学びと実体験、毎週継続してきたEQ能力の開発の取り組み、そして、ポートフォリオという気づきや学びの記録ファイルを活用しながら振り返りを行い、一人3分で発表を23名全員参加で行うことができた。ドキドキしながらも自らの学びと成長を報告するため、個別練習もしてきて、聴き応えのある発表会となった。
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夢・目標「人を笑顔にしていける人になりたい」
人間関係度を高めていく自己開発目標にチャレンジ
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夢・目標「やろうと決めたことは実行していく」
自己主張性を高めていく自己開発目標にチャレンジ
自らの成長課題を意識し、日々の生活の場面や大学での行動を変えていくことで、友達や教職員、家族、バイト先の店長たちから「なんか、イキイキしているね」「毎日が楽しそう」「笑顔が増えた」「明るくなった」「接しやすくなった」という周囲の声や反応の変化、そして、自分自身でも「自分の行動を振り返る癖がついた」「相手の気持ちを考えるようになった」「相手や周囲に気を配るようになった」と自らの成長を実感していることがその発表からも伝わって来た。グループの仲間のことを意識し、協力してきた結果、相手も自分も変化と成長を実感している学生、グループの活動などによる行動の変化と高低の理由をしっかり分析し自己理解を深めた学生、自分の可能性を広げ、より開発を継続させていこうと決意する学生たちの言葉が心に響いた。
時間不足、準備不足、知識不足、人手不足と反省点、改善点、課題はいろいろあるが、そんな中でも、大学生協として、誠実さ、熱意、信念、使命感をもって、15コマの授業をサポートしてきた。それは、23名の学生たちの笑顔と素直さが私たちを動かし、元気づけ、共に歩む原動力になった。学生たちが発表した振り返りシートは貴重な財産である。
5.なせば成る、なさねば成らぬ何事も
結論として「なければならない」で進むだけでなく「できることからやってみる」ことも大切なことだと実感している。今回の講座サポートも、条件が揃わないから「できない」と思うのではなく「まずは、できることは全部やってみよう!」と教職員の皆さんと大学生協職員が協力したことで、こんな素晴らしい経験と成果を見届けることができた。そして、もう一つの成果は、東雲大学生協職員の井長店長も今回の取り組みをきっかけにSEQアドバイザー資格を取得し、大学のインターシップに行く学生向けに解説会の実施や短大の先生からもゼミ生にSEQ活用の相談などが入ってきている。
6.講座のサポートに取り組んで
冒頭にあった先生の講座の悩みは、今年の取り組みで可能性が広がり、来年度は、より改良されていく予定がされている。
①「スチューデントEQ」は、学生の一人ひとりの自己分析と自己理解を促し、かつ自己成長を支援するツールとして活用できることを改めて確信した。 ②「ポートフォリオ」は、学生もサポートする側も粘り強く活用し継続することで、学生一人ひとりの学び成長した過程を振り返れる世界で一つの宝ものになり得るツールである。多様な取り組みの場で活用をお勧めしたい。 ③「実践・体験型授業」には、大学生協の実績や経験を活かし、協力することで、大学の授業や教職員をサポートしていくことができる組織であり、人材があると勇気をもって伝えたい。
今回の報告はあえて課題などは書かずに、勇気とヤル気になる報告としてまとめさせていただいた。
7.東雲大生協 井長店長の感想と決意
事業連合職員から「訪問して直接説明したい」と打診を受けるまで、店舗としてSEQの推進に全く取り組んでいなかった。私自身SEQを「成長支援ツール」として正しくは捉えていなかったこともある。上記のような流れで<あれよあれよ>と東雲女子大学の授業で使用することになったが、これが初めての『販売』でもあったし、生協が関わっての授業運営は「どうなることやら…」という不安を抱えながらの春であった。〔店長1人しかいない生協で、ただでさえ忙しい新学期に授業に関わって、自分はやっていけるのだろうか…?〕
実際は、事業連合職員が強い推進力で、準備から頻繁に大学に来て関わってくれたので、「乗り掛かった船だ」「最低授業には毎回参加する」というスタンスで臨む形だった。実際の所、1コマ90分の授業に立ち会うので精一杯、授業後の振り返りや次回の確認の打ち合わせの場にはほとんど参加することが出来なかった。
私自身は授業運営では、表に立つことは少なく、ほぼ毎回Teaching Assistantのような立場で関わっていった。そして、SEQについては理解しているつもりで授業に参加していたが、実は「解ったつもり」だったことに、前期途中で参加した「アドバイザー養成講座」において気付かされた。
(SEQとEQの違いさえ理解していなかった…『SEQは、EQを発揮した結果としての行動(の量)を測定している』「そうだったのか!」(ガガーンッ!目から鱗)。そして、初めて「成長支援ツール」としての有効性を認識したと思う。今後この「正課授業での活用」がどのような広がりを学内にもたらしてくれるかは現時点では未知数。西村先生は来年度の同授業でもSEQを活用した取り組みをされる予定でおられるし、影響されて「ゼミ費で学生に受診させてみようと思う」という先生も出てきている。
私自身、今回の取り組みを経て、理解が深まり自信を持ってオススメできるようになったことは、自生協にとっても貴重な経験となった。これからも学生の成長のきっかけづくりの『一つ』となるよう活用を広げていければと思う。
学校法人 松山東雲学園
松山東雲女子大学・松山東雲短期大学
松山東雲学園は、1886(明治19)年四国最初の女学校として松山女学校を設立。1964(昭和39)年に松山東雲短期大学を開学、1992(平成4)年に松山東雲女子大学を開学。松山東雲女子大学は人文科学部 心理子ども学科の単一学科(子ども専攻と心理福祉専攻)
学部学生 953名・教職員 114名(両大学合計)